「新世代フレンチ・セレブの恋愛観」


■恋人たちを生き生きと描くフランス映画。恋人への愛だけでなく、家族への愛、兄弟姉妹への愛。様々な愛を描きながら、人生を謳歌するために必要不可欠なものは愛に他ならない。ということで、これからのフランス映画界を担う新進気鋭の女優・俳優に、フランス式恋愛観を聞いた。


「愛があって仕事がある。仕事の中に愛がある!」
ギョーム・カネ&フィリップ・ルフェーヴル『僕のアイドル』監督・出演・共同脚本)



部屋に入るなり、和やかな雰囲気を作ってしまうギョーム・カネ。ブラピ主演の『トロイ』で王妃ヘレンを演じたダイアン・クルーガ(ディアーヌ・クルジェ)を妻に持つギョームは、長編初監督作品『僕のアイドル』で共演。ギョーム自身は優しい恋人との生活を捨て、謎すぎる仕事を優先するちょっと気弱で突然キレるユニークな新米プロデューサーを演じている。このユニークなキャラクターは、共同脚本のフィリップ・ルフェーヴルと考えたという。取材中も常に冗談を言い合う仲良しすぎる男友だち、ギョーム・カネ&フィリップ・ルフェーヴルに恋愛について聞いた。



■伊藤:『僕のアイドル』のテーマは?

ギョーム・カネ(以下・ギョーム):権力があり金もある、全てを手に入れた50代半ばの男が、無感情になってしまって、何に対しても感動しない、そういう人間が、人の感情を操作する映画なんだ。ブルスタルは、自分の会社では王様のような存在で、時間を持て余していて、退屈している。退屈しのぎに何か楽しみを見つけるために、いろんな人の心を操作して、それを遊び道具にしている。そんな人間が、自分の気持ちを取り戻すためには、行き着くところまで行き着かなければならない。それをテーマに作ったんだ。

■フィリップ・ルフェーヴル(以下・フィリップ):これは全世界に共通する普遍的なテーマだと思う。“人間とは何のために生きているのか。何を求めて生きていくのか”。それがあるために、自分が前に進んでいける、生きていけるんだよね。それはいったい何なのか。それを探し求めることがテーマなんだ。少なくとも僕は、そう思う。これがこの映画の本当のテーマなんだ。


■伊藤:映画の冒頭で象徴的に登場する、アニメショーンで始まるテレビ番組。モデルとなっている番組はあるんですか?

■ギョーム:素晴らしい質問だね! あれは僕らで作り上げたものなんだけど、ヒントとなる番組はたくさんあったよ。アメリカの「ジェリー・スプリンガー・ショー」や、フランスにもある“テレビ・リアリティ(TVショー)”のようなものからインスピレーションを得たんだ。


■伊藤:撮影にあたってこだわった点は?

■ギョーム:物語の背景にあるテーマも大切だけれども、実際に目に見えるものも意識して作ったんだ。ブルスタルの服装は、70〜80年代のものを使ったし、家もその時代にありそうなインテリアを使った、音楽もね。というのも、この時代こそが、ブルスタルにとって一番幸せだったんじゃないかなと思ったからなんだ。自分の人生の中で頂点を極めた時代が、70〜80年代だった。それを表現するために、この時代を設定したんだ。


■伊藤:楽しかった点は? パーティのシーンは、かなりおかしかったです。あのウサギの着ぐるみは、なぜウサギだったのですか?

■ギョーム:あのシーンは楽しいシーンではあったんだけど、ロケ撮影の最終日でものすごく疲れていたんだよ(笑)。楽しいのと同時にものすごく疲れていた。しかも僕、ウサギの恰好をさせられたからさ(笑)。あんまり気持ちのよいものじゃなかったよ(笑)。フィリップもカンガルーの恰好してたし、すごく暑くてさ(笑)。最初は笑っていたけど、最後はそんな余裕はなくなっていたよ。

■フィリップ:悲惨な事件とクレイジーなまでに脳天気なパーティ。そしていい大人の男がウサギとカンガルーの着ぐるみ姿ではしゃいでいる。笑えるけどゾッとするだろ(笑)。


■伊藤:映像の遊び感覚も楽しかったです。好きな映画や監督は?

■ギョーム:僕は映像の綺麗な映画が好きなんだ。コーエン兄弟ポール・トーマス・アンダーソンヒッチコック、スコセッシ、デ・パルマ、ジャック・オディアール、クロード・シャブロルなど。最後のシーンはスコセッシからヒントを得ているよ。

■フィリップ:アメリカ映画が好きなんだ。特にコーエン兄弟が好きだな。フランス映画ですごく好きな監督は、ジャック・オディアール。彼の作った3本の映画(『つつましき詐欺師』『天使が隣りで眠る夜』『リード・マイ・リップス』)は素晴らしいよ。


■伊藤:では、『僕のアイドル』のバスチアンのように、仕事が忙しくすぎて彼女に怒られた友人がいたとします。その友人にアドバイスするとしたら?

■ギョーム&フィリップ:愛があって仕事がある。仕事の中に愛がある! どんなときでも、すべきことは仕事を選べ(笑)!


■伊藤ありがとうございました…。






ギョーム・カネ
<profile>
1973年4月10日生まれ。『ザ・ビーチ』でレオナルド・ディカプリオと共演し、『ヴィドック』で主演を務めた若手実力派俳優。3本の短編や舞台演出を経ての念願の長編作品が『僕のアイドル』。人懐こい笑顔と明るくユーモア溢れる好青年だが、シリアスな演技もコミカルな演技をこなせる演技力を備えている。最新出演作は『世界でいちばん不運で幸せな私』。


【フィリップ・ルフェーヴル】
<profile>
プロデューサーとして活躍しながら、テレビドラマを中心に俳優業も。『僕のアイドル』では共同脚本と出演もしている。



■作品データ■
『僕のアイドル』Mon idole
2002年/112分(フランス公開:02年12月17日)
監督・出演:ギョ−ム・カネ(『ヴィドック』)
脚本・出演:フィリップ・ルフェーヴル
出演:クロチルド・クロー、フランソワ・ベルレアン(『無伴奏シャコンヌ」』)、ディアーヌ・クルジェ、ジャン・ロシュフォール

<イントロダクション>
ザ・ビーチ』『ヴィドック』の若手俳優ギョーム・カネの長編初監督作。セザール賞にもノミネートされた本作は、アニメショーンや70年代の音楽を巧みに活かした、コミカルでシニカルな野心作。実生活でギョーム・カネのパートナーであるディアーヌ・クルジェは、ブラッド・ピット主演の『トロイ』に出演予定。

<作品紹介>
TV局に勤めるバスチアン(ギョ−ム・カネ)は、自分の番組をもつことを夢見る新米プロデューサー。ある日、尊敬しているベテラン・プロデューサーのブルスタル(フランソワ・ベルレアン)から、週末を別荘で過ごそうと誘われる。野心を胸に同行したバスチアンだったが、そこで意外な体験する。仕事、名誉、美しい妻(ディアーヌ・クルジェ)と全てを手に入れた彼らの趣味は、バスチアンを困惑させて遊ぶゲームだった…。