巨匠は嘆いている

tofu22005-05-06



今さらながら『ドリーマーズ*1』を観た。これがですね、恥ずかしくなるくらいに青臭い内容と手法なんですよ。それは悪い意味なのか確信的なのかは、観る人によるところなのですがね。


というのもですね、映画の舞台が68年のパリで、そこはもちろん5月革命真っ盛りなわけですよ。しかも映画の冒頭は、パリの映画オタク(シネフィル)たちの聖域である映画館のシネマテークで始まるわけです。映画館長のアンリ・ラングロワが追放されたことへの抗議運動なぞをやっている学生たちを撮しながら、ヌーベルヴァーグの申し子である俳優のジャン・ピエール・レオー本人が登場するわけです。もうお爺ちゃんなんですけどね。そこへ若きレオーが同じ行動をしていた当時のニュース映像を差し込んでみたりしてるわけですよ。


もう何すか、これは。映画専門学校の学生作品ですか? 恥ずかしいんですけど。まあ、それは良しとして観ていくわけですがね、それでも、とにかく、とことん恥ずかしいんですよ、登場人物のやっていることが。いや、若さゆえの行動なんでしょうね。パリに住む双子の姉弟アメリカから来た留学生が、映画の世界にのめり込みながら、現実逃避っぽい感じで青春を謳歌っていうんですかね。迷路のようなアパルトマンに引きこもって、愛を求めあってみたりするわけです。浅はかな社会への反抗心を掲げながらね。アメリカ人はベトナム戦争への徴兵を逃れてきているし、パリの双子姉弟はふたりで疑似恋愛ゴッコで、現実の恋愛やら社会やらから逃れているわけです。


そして映画の最後は、双子の姉弟は5月革命の渦に浅はかな考えのままに身を投じ、アメリカ人は、充分楽しんだから、もうやめたって感じになります。青い!青すぎる!何ですかこれは〜!そして、映画的表現も青すぎる。ヌーベルヴァーグの作品を差し込む手段が甘すぎる。っつうか恥ずかしげもなく、よくやるよってくらいですわ。何ですかね、この青臭さは。


68年といえば、アメリカではどっぷりと政府不審の渦にいるわけで、ヒッピーたちがフラワームーブメントを起こしたわけですが、70年代に入ってからは、もしかして無駄な運動だったかなあ、なんて思う動きも出たわけです。


この映画の青臭さは、ここにあるんじゃないかなと思えるんですけどね。だって、監督は41年生まれの巨匠、ベルナルド・ベルトルッチですよ。『革命前夜』ですよ、『暗殺の森』ですよ、『ラストタンゴ・イン・パリ』ですよ、『シェルタリング・スカイ』ですよ。若者に向けて「お前ら、映画監督になりたいんだったら、こんくらいの映画、ちょいちょいって作ってみろよ」と言っているに違いない。「還暦過ぎたオレが、これくらい作れるんだからさ」と…。「勘違いでもいいから、映画への愛、恋人への愛、社会への憤りを感じてくれよ、そしてそれを表現してくれよ」と…。


巨匠は嘆いていらっしゃるのですよ、無駄でもいいから、今、この時代に生きていることを感じてくれと…。「ドリーマーズ」になることを恐れるなと…。


ただ、映画館の最前列に座るのはシネフィルで、最後尾に座るのはデートでっていうのは、素敵ね。。。
それと、双子の姉弟を演じている、映画監督フィリップ・ガレルの息子ルイ・ガレルと「雨の訪問者」の女優マルレーヌ・ジョベールの娘エヴァ・グリーン(『キングダム・オブ・ヘブン』)と、アメリカからの留学生を演じるマイケル・ピット(『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』トミー・ノーシス役)は、それぞれ良かったです。