もちろん僕らは“コア(地球の核)”に実際に行ったわけじゃないけどね(笑)

tofu22004-08-21



ザ・コア』ジョン・アミエル監督インタビュー


地球の核(コア)の自転の停止により、一年以内に人類は滅亡してしまう。この人類最大の危機を救うべく、6人のテラノーツ(地中潜行士)たちが前代未聞の地下1800マイルに挑戦する! 壮大なスケールと圧倒的なビジュアルインパクトで描くスペクタクル巨編『ザ・コア』が6月7日に公開される。科学的知識と想像力を駆使して作り上げる「サイエンス・ファクション」という新しいジャンルを生み出したのは、イギリス出身のジョン・アミエル監督。インタビュー中に必ずジョークを交えて笑わせてくれる監督に、映像や作品作りでのこだわりについて聞いた。


伊藤:冒頭から迫力ある映像に驚きました。


ジョン・アミエル監督:地中探査艇が地球の中心に潜っていくことを、本物の冒険として信じてもらいたかったんだ。一番こだわったことは、誰も見たことがない地底の様子を、納得して観てもらえるようにすること。観客は、これはビジュアル・エフェクトなんだ、と承知の上で観ているだろうけど、もしかして地中は本当にこうなっているのかな、と納得してもらうたかった。だから、できる限りリアルな映像にしなければならない。それが僕のこだわりだったんだ。もちろん僕らは実際に“コア(地球の核)”に行ったわけじゃないけどね(笑)。だからこそ、本物として観てもらえるように、映像にはかなりこだわりたかったんだ。

伊藤:リアルな描写を心がけながら、エンターテインメントな作品に仕上がっています。VFXで特に意識した部分はありますか?


ジョン・アミエル監督:すごく小さな部分にもこだわったんだ。例えば、地中探査艇バージルが海中で作り出す気泡。ただの気泡として描くのではなく、地中探査艇バージルの構造と動きを緻密に計算して描いているんだ。


まず最初に地中探査艇バージルが海の中に潜る。その時初めて探査艇バージルの全貌を現す。そこで6つのターバインがあることが分かる。プロペラみたいな動きをする部分で、それがいつもグルグル回っているわけ。海の中でプロペラが回るってことは、そこから小さな波が起こるよね。それと同時に小さな気泡も出てくる。その泡が海底の中で浮かびながら動いていく。6つのプロペラは一つひとつ繋がっているから、その中を海水が通ったらどうなるか。泡はどんな形になるのか。そんな動きをするのか。それってすごく難しい動きになるはずなんだ。


ひとつのプロペラから泡が出るなら、一方方向に進んでいくだけで簡単だけど、探査艇バージルには6つもプロペラがある。ひとつのターバインの中から出てきた泡が、次のターバインの中に入って再び出てくる。だから、どんな形の泡になっているかを表現するのは、とても複雑なんだ。この描写のために、コンピューターのエキスパートを4人担当させて、何ヶ月も計算したんだよ。この小さな泡の形と動きだけにね。それだけの時間を掛けて、あの泡をVFXで作ったんだ。


劇場で観客がこのシーンを観たとき、小さな気泡だけに集中して、「この泡って、ホントにすごくリアルだなあ」なんて思う人は、たぶんいないと思うけどね(笑)。だけどたった一つの気泡のような、本当に小さなことにも入念に注意しながらリアルに描くこと、この積み重ねを繰り返すことで本物らしい映像が作れると信じているんだ。泡ひとつにも徹底してこだわる、そこからリアルな映像が生まれているんだ。


映画の冒頭から映像へのこだわりに驚かされるはずだ。世界各国で起こる異常現象の描写は圧巻だ。イギリスのトラファルガー広場では、ヒッチコックの『鳥』さながらに、方向感覚を失った鳥の大群が灰色の空から超低空飛行で街ゆく人々の頭上や傍らをもの凄い勢いでバタつきながら通り過ぎる。サンフランシスコでは、太陽光線が地球に直射し、車はおろか、みるみる赤黒く熔けだし鉄クズのごとく崩れ落ちるゴールデンゲートブリッジと、沸点を超えた海原。いったいこれから何が起こるのか、得も言われぬ危機感が迫ってくる。そして、これから始まる、5000度にも達する液体合金の世界が待ち受ける地球の核(コア)への挑戦に、観客はすっかりハマッてしまうはずだ。

 

    • 伊藤:性があるからなのかなと感じたのですが…。


ジョン・アミエル監督:僕の哲学として、映画には3つの重要なものがあると思っているんだ。一つ目はキャラクター、二つ目にキャラクター、三つ目にキャラクター(笑)。とにかくキャラクターが大切なんだ。波瀾万丈で派手なストーリーでなくても、キャラクターさえしっかりしていれば、とても魅力的な映画になるんじゃないかな。その例として『アバウト・シュミット』なんかはそうだね。そして、すごいVFXを駆使しているけど、映画の途中で飽きてしまうようなものもある。それは、キャラクターがはっきりしていなくて、観客が共感できない物語だからなんだ。だから僕は『ザ・コア』を作るとき、魅力的なキャラクターを作ろうと心がけたんだ。チェーホフの作品や『めぐりあう時間たち』のような、キャラクターを中心に作り上げられる作品のようにね。

そして、キャラクターを映画の中で実現させるために、素晴らしい俳優をキャスティングした。彼らとはキャラクターのバックグラウンドについて、かなりの時間を掛けてじっくり話し合ったんだ。よりリアルに演じてもらうために、一緒にキャラクター作りをしていったんだ。実際に宇宙飛行士や技術者や科学者たちに会ってもらって、本物の仕事内容などの話を聞いてもらったりもしたよ。自分が演じるキャラクターがどういう人物なのかを身をもって理解できるようにね。

2週間のリハーサルでは、映画には登場しない部分も入念に話し合った。画面に写っている動きだけではなく、さまざまな過去を持つキャラクターであることを俳優に理解してもらったんだ。20年来の友人という設定のキャラクターもいるからね。なぜ今の職業についているのか、どんな友情関係があるのかを理解してもらいたかったんだ。キャラクターの過去を踏まえた上で演技をすれば、観客は登場人物をより理解してくれる。そうすることで作品に深みが出て、よりリアルな感じを与えることができるんだ。
 

「映画作りで一番大切なことはキャラクターである」。演劇畑で活躍していた監督ならではのこだわりだ。そのこだわりが、映画作りにおける哲学にしているのは、ストーリー編集者としてイギリスの国営テレビBBCで映画へのキャリアをスタートさせた経歴を知れば、納得できる。


そして「櫻の園」「三人姉妹」などで知られるロシアの作家・劇作家、チェーホフを例に挙げたかと思えば、ニコール・キッドマンジュリアン・ムーアメリル・ストリープが共演する『めぐりあう時間たち』に言及し、さらに、平凡すぎるキャラクターによって物語を巧みに展開しながら、黒すぎるユーモアが謎の感動を呼ぶジャック・ニコルソン主演の『アバウト・シュミット』の名を口にする。個性的なキャラクターであればあるほど、それを演じる俳優選びは難しいはず。そんな作品ばかりを例に挙げたジョン・アミエル監督にとって、キャスティングへのこだわりはどのようなものなのだろうか。


伊藤:キャスティングは、監督がキャラクターに合わせて決めているのでしょうか?


ジョン・アミエル監督:そうだよ。でもね、キャラクターに合っていると同時に、意外性を表現することも考えているんだ。例えば、天才的な科学者で、地中探査艇バージルの設計者のブラズルトン役。脚本には彼が黒人であるとはどこにも書かれていなかった。でも、キャスティング全体をみて、このキャラクターが黒人だったら、物語がよりおもしろくなるだろうと思ったんだ。どんなきっかけで彼らが仲間になったのか想像したくなるだろ? キャラクターたちに奥行きが広がるような意外性を感じるんじゃないかってね。それでデルロイ・リンドーをキャスティングしたんだ。
それと、スティックリーもそうだね。女性でNASAの飛行主任でというのは、現実には今までにいないんだ。だから女性という設定にしてみた。そしてその女性が黒人だったらもっと意外性がある。そう思ってアルフレ・ダードをキャスティングしたんだよ。

意外性を反映したキャスティングをすると、観客はそこから真実味を感じてもらえるんじゃないかと思うんだ。あ、もちろん、意外なことばかりではなくて、キャラクターの特徴をより明確に、ビビットにする側面ももちろんね(笑)。


  「Be There or Be Square ! (「さあ、映画館で『ザ・コア』を観よう! そうじゃなきゃカッコワルイぞ〜!」)」。インタビューの最後に、韻を踏んだコメントを明るくキメてくれたジョン・アミエル監督。そんな監督は『エントラップメント』『コピーキャット』『ジャック・サマースビー』など幅広いジャンルを撮ってきている。次回作にコメディはいかがですか? との言葉に、「コメディは難しいからなあ、次回作はサイコ・スリラーにしようかなあ」とのこと。いずれにせよ、登場人物の個性が浮かび上がる作品になることは確かだろう。キャラクターへのまなざしを大切にするジョン・アミエル監督の最新作、想像を超える大スペクタクル巨編『ザ・コア』は6月7日公開。

【2003年5月来日時インタビューより】