『至福のとき』主演女優ドン・ジエ単独インタビュー

tofu22004-08-26


2002年来日時にインタビューしたもの。堂々の未掲載記事30。


【リード】
世界中の映画ファンを魅了する中国の映画監督チャン・イーモウ。彼の最新作『至福のとき』が現在公開中だ。『あの子を探して』『初恋のきた道』に続く「しあわせ三部作」の最終章にあたる本作のヒロインを演じるのは、5万人の中から選ばれたドン・ジエ。コン・リーチャン・ツィイーに続き、チャン・イーモウ監督の新しいミューズとして注目の女優だ。継母からの辛い仕打ちにも負けず、強く生きようとする盲目の少女ウー・インを演じるドン・ジエに、映画について聞いた。


【本文】
至福のとき』で、後天的に失明し、継母に冷たく扱われる少女ウー・インを演じるドン・ジエ。映画の中では今にも倒れそうに痩せていたが、実際の彼女は可憐な姿は映画のままに、大きくつぶらな瞳に芯の強さを感じさせる可愛らしい女性。中国ではすでにテレビ・ドラマで活躍中の彼女に、映画出演について、そして女優として世界に羽ばたこうとする意気込みを聞いた。



小見出し
「映画は人に夢を与えるもの。この映画の全てを好きになってほしい」


伊藤「『至福のとき』は、女性を主題にした作品を多く撮っているチャン・イーモウ監督の作品です。その監督の作品に主演されるということで、プレッシャーや心構えのようなものがありましたか?」


ドン・ジエ「この作品に出演できたことは、本当に運がよかったと思います。5万人の中から選ばれて、チャン・イーモウ監督の作品のヒロインになれたことをうれしく思います」


伊藤「監督の第一印象は?」


ドン・ジエ「お会いする前は、とても堅い人なのではないかなと思っていたのですが、実際にお会いしてみると、とても親しみやすい人でした。最初に会ったときは、簡単なビデオ撮影をしただけなのですが、私をリラックスさせてくれたりするやさしい方で、意外な感じがしました」


伊藤「今回演じられたウー・インという役は、原作にないキャラクターです。監督が新たに作り上げたという役柄ですが、そのキャラクターを演じるにあたって、実際にお会いしてやさしかったという監督からの演技指導はどのようなものでしたか?」


ドン・ジエ「確かに原作にはウー・インのようなキャラクターはいませんでした。監督が脚本を書いている段階で、実際に目の見えない少女がいらしたのですが、その人をモデルにしながら私の役柄が脚本に描かれていきました。ですから映画の中では生き生きとしたキャラクターになっていったのだと思います」


伊藤「モデルとなった方には実際にお会いになったのですか?」


ドン・ジエ「彼女とは2カ月ほど一緒に生活しました。また、モデルにさせてもらったといっても、映画の中のウー・インというキャラクターに全てを反映させたというわけではなく、いくつかの共通点をキャラクターに盛り込んでいきました。後天的に失明するという設定や、視力が回復する見込みがないという設定などです」


伊藤「目の見えない役だったにもかかわらず、映画の中での存在感がその視線からも感じるほどでした。モデルとなった少女と一緒に過ごされたことで、演技に反映したものなどはありますか?」


ドン・ジエ「まず演技するにあたっては、演じるキャラクターのバック・グラウンドを想像する力というものが必要だと思っています。それと同時に、どんなキャラクターを演じるときにも、必ず演じる役の中に自分と共通する何かを探し出し、自分自身を反映することが必要だと思います。今回の作品で演じたウー・インという女性は、とても芯の強い性格の人ですが、私自身にもそういう部分があると思います」


伊藤「確かに、つらい境遇の中にいても強く生きる女性だという印象を受けました。それは現在の中国の女性のイメージというものも反映されているのでしょうか?」


ドン・ジエ「そうですね。中国の女性はとても独立心が旺盛です。そしてとても生活力に溢れている人が多いと思います。不景気で工場などが閉鎖されて職を失ってしまう人が大勢いるのですが、まずは女性が職を失うことが多いのです。そんな中でも40歳代、あるいは50歳くらいの女性たちは、それでも生活のためになんとか自分で仕事を見つけて働いています。私の知っている周りの人たちにもそういった状況の人がいますが、彼女たちは本当に力強い女性たちだと思います」


伊藤「ところで、ドン・ジエさんは作品の中でかなり痩せていらっしゃいました。撮影中の体調は大丈夫でしたか?共演のみなさんからの反応はいかがでしたか?」


ドン・ジエ「辛かったです(笑)。でも共演のみなさんはベテランばかりで、しかもとても素晴らしい俳優さんたちばかりでした。また、撮影に入る前は、一緒に芝居をするときに、この娘は何も分かっていないだろう、と思われるのではないかと不安がありました。でも実際に撮影に入るとそんな心配は全く必要ないくらいでした。むしろとても心配りをしていただいて、アドバイスなどたくさんいただいたりと、本当にやさしい人たちでした」


伊藤「主演として映画に出演されましたが、今後どのような作品に出演されたいと思われますか?また、どんな役柄を演じたいとお考えでしょうか?」


ドン・ジエ「今後やってみたい役柄は、現実の自分とは全く正反対の役をやってみたいと思います。また、今まで演じた役とは違うものにチャレンジしたいと思います。それからジャンルを問わず、多くの映画に出演したいと思っています。今までもテレビ・ドラマへの出演はしているのですが、映画ですと初めて世界中の人たちに観てもらえると思いますし、映画は人に夢を与えるものですからね」


伊藤「そうですね。ところでドン・ジエさんはダンスをされていたということですが、アクションなどはいかがですか?」


ドン・ジエ「実は、帰国してからテレビ・ドラマでアクションものをやる予定なんですよ。これはたぶん、ご覧いただけないのかもしれないですね(笑)。でも近い将来、ぜひアクション映画に出演したいと思います」


伊藤「日本では今回の『至福のとき』で、ドン・ジエさんを拝見することになりますが、いろいろな役柄のドン・ジエさんを観たいと感じると思います。いろいろな役柄に挑戦したいとお聞きしましたので、今後も多くの映画に出演していただき、ドン・ジエさんのいろいろな姿を拝見させていただけたらと思います。最後に日本の観客の皆様に『至福のとき』の見所を教えていただけますか?」


ドン・ジエ「この映画は、私たちキャストやスタッフが力を合わせて作った映画です。映画の全てを好きになってほしいと思います」


【2002年来日時にインタビュー】